ロックバンドを好きになると、タイトルのような主張をたまに見かける。たしかに、バンドはアイドルではないので、個人ではなく、バンドごと推すべきかもしれない。でも、本当に、「推しをつくること」自体に問題があるのだろうか。
もくじ
1.「推しをつくるな」の意図
2.なぜバンドに推しができるのか
3.問題の論点は“推し方”
4.筆者の考え方
□1.「推しをつくるな」の意図
「ロックバンドに推しをつくるな」という主張の中身について、まずは説明したいと思う。推しというのは、バンドという1個体で見るのではなくバンドを構成するメンバーそれぞれを見て、そのなかで特にこの人が好き!という感覚だ。そもそもバンドが生み出す音楽は1人で鳴らすことはできず、メンバーが揃って初めて生み出される。そのため、そのバンドの音楽が好きならば、特定のメンバーに愛を注ぐ「推し」という概念は必要ないはずである。むしろ、「メンバーは全然知らないけれど、このバンドの音楽がめちゃくちゃ好き」という人の方が、純粋に音楽として好きなんだろうなと思う。
だが、筆者はここに一石投じたい。
そのバンドの音楽が好きだからこそ、推しができることだって、ある。
□2.なぜバンドに推しができるのか
上記のように、「推しをつくるな」という主張に関しては理解をしているつもりだが、筆者はバンドに推しができる側の人間に属している。こちら側の人間がこういう記事を書くのは珍しいと思うので、思う存分主張させてもらいたい。なぜバンドに推しができるのか。この答えは、音楽が表現だから。楽器で音を鳴らして、音が重なり合ってできるのが音楽だとしたら、AIにも作成可能だ。音楽が人間にしか鳴らせないのは、そこに感情や想い、願いが、練り込まれるからだ。今の時代、AIも音楽をつくれるかもしれないが、私たちが求めている音楽は、感情のこもった、人間のうみだす音楽だ。メンバーが合わさって初めてそのバンドの音になるのだから、特定のメンバーだけを推すのではなく、バンドごと愛そうよ、という主張には完全に同意する。が、「推しをつくるな」という主張には同意できない。自分を救ってくれる音楽を辿っていけば、作り手の想いや考え方、生き様に辿り着く。それに対して素敵だと思ったら、やっぱりその表現者のことを好きになってしまうと思うのだ。いわゆる顔ファンは論外だが、その人となりを好きになって推すのであれば、それもまた、まっとうな音楽の聴き方だと筆者は思う。
□3.問題の論点は❝推し方❞
第二章で、バンドに推しをつくることを肯定したが、推し方を間違えれば、そのバンドをアイドル化へ追い込んでしまうかもしれないという危惧は感じる。筆者には、忘れられない光景がある。とあるフェスでの光景なのだが、大人気ロックバンドの演奏前、客席前方を埋め尽くしたのは着飾った女性ファン。演奏が始まり、モッシュが起こると、キャーキャー言いながら倒れていく。その靴じゃ無理だろうよ。「やばいんだけど(笑)」「大丈夫?(笑)」という会話に嫌気がさす。汗を流しながら歌っているバンドマンの手前で、友達を心配し合っている姿が無理だった。友達は大事だけど、今はいいじゃないか、お互いぐちゃぐちゃになっちゃえばいい、そして終わってから泥だらけで笑い合えばいい。あの場で、バンドの音をしっかり受け取れた人は何割だったのだろうか。届かない観客に向かって必死に歌うその姿が、あの日は痛々しかった。ファンならそのバンドが何を伝えたいかを考えるべきだ。何を伝えたくて、どういうバンドでありたいのか、なりたいのか、それを受けとめて、力になるべきだと思う。あのバンドは、恋愛系の曲が多いから女性ファンが多いが、ライブになると熱く激しく男臭い演奏をする。あの日はそれが空回るような客層で、だから痛々しくうつったのだと思う。アイドルになりたいバンドなら推しまくればいいかもしれないが、ロックバンドでいたいバンドを好きになったら、ロックバンドでいさせてやってほしい。推しありきではなく、バンドの音楽を好きになり、深みに進んで推しもできたという経緯を経ている人ならそのバンドがどんなバンドになりたいか、想像できるはずだ。
□4.筆者の考え方
改めて、筆者の考え方を整理してお伝えしたいと思う。筆者は、ロックバンドに推しをつくることを肯定する。自分自身、もちろんバンドの音楽をまず好きになるが、なぜこの歌詞ができたのか、この曲をつくった人は何を大事にしている人なのか、どんな生い立ちなのか、そういったことを追求したくなるタイプである。その音楽の、表現の、根幹を知りたいと思う。そして、それをやっていくうちに、表現者自身の魅力に惹きつけられていく。「ああ、こういう考え方をもっている人の表現だから、私は安心したんだ」とか、「こういうやりきれない気持ちを音にしたからこんなに激しいんだ」とか、納得できる瞬間がやってくるときがある。それがたまらなく好きだ。めでたく推しになると、サインをもらったり、お話できたりしたときなんかは、心の中で「キャー!」となる。もうこれは仕方がない。でも、憧れのバンドマンと話したら男性ファンだって、心の中で「オオオ」となるだろう。(笑)その点は一緒だと思う。気を付けるべきなのは、やっぱりライブ。第三章でお伝えしたような光景には絶対したくないと思う。まっすぐにそのバンドの音楽を聴いて、その音に身を任せて応えたい。身なりなんて気にしない。私の好きなバンドはぐちゃぐちゃのフロアが好きだと思うから。というか、これは気をつけることでもないな。だってそのバンドの音楽が好きだったら、そのバンドに合うノリ方になるはずだ。問題なのは、バンドに推しをつくることではない。バンドを好きにならずに推しだけ好きになってしまった、推しありきの愛が問題だ。好きなのが音楽じゃなくて推しだけだからノリ方が分からずにライブで痛い光景をつくってしまうのかもしれない。
推しはつくればいいけどバンドありきであるべし、これに尽きる。
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