呼吸をするように、いろんなアーティストや曲名が出てくる日記があったら面白いなと思ったので、書いてみます。街をぶらついて本屋さんに行った、なんでもない日曜日。
祖師ヶ谷大蔵という街
東京で暮らして約3年。一番行くのは下北沢。あとは渋谷、新宿、吉祥寺。ライブハウスのある街にはよく行くが、他は行かない。そんな筆者が珍しく出かけようと思った街が、祖師ヶ谷大蔵。とはいえ、街自体に惹かれたわけではない。
黒沼英之。
10年前、ビクターで活動していたシンガーソングライターで、大学時代に彼の音楽に出会い、苦しくなったときによく聴いていた。知った時には活動休止していたので、生歌を聴いたことはない。
ほんの数日前、彼の活動再開を知った。去年の秋に『HOPE』という新曲をリリースして活動を再開したようだ。活動再開を知った日、スキップをしながら半泣きで家に帰った。嬉しかった。そして、その楽曲があまりにも素晴らしかった。
『HOPE』発売記念フェアがBOOKSHOP TRAVELLERで開催されるらしい。その本屋さんがあるのが、祖師ヶ谷大蔵だ。こんなの行くしかない。めずらしく行き先がライブハウスではない、ひとりきりのおでかけが決まった。
揺られながら聴いた音楽
柔らかい気持ちで出かけたかったから、祖母が作ってくれた上着を羽織って家を出た。3月初めの東京は、春の風が吹いている。
家から最寄り駅までは、メメタァというバンドの曲を聴きながら歩いた。昨日、このバンドのボーカルの弾き語りを生で聴いたのだ。
君は君でいいんだって、君は君だろって、頭を撫でてくれるような、ホッとする優しさがある。昨日の弾き語りで『コンパス』という曲に出会ってから、なんだか気分が良い。
電車の中では、星野源を聴いた。最新EP『光の跡/生命体』。早朝の朝露が葉っぱの上で光っているのを見つめるときのような、ドキドキして、ちょっと切なくて、でも落ち着く、心のざわめき。
音楽を聴いていると、あっという間に祖師ヶ谷大蔵に着いた。でも、着いたと思って降りた駅は、ひとつ前の成城学園前駅だった。
ウルトラマンとお散歩
成城学園前駅の上の、人が座ったりできるような空間から、合唱部の歌声が聴こえた。どこかで聴いたことのある卒業ソングだったから、卒業生を送る、最後の活動日だったのかもしれない。
少しの懐かしさを感じながら、駅の下にあるスーパーでフルーツオレを買い、アンデルセンというパン屋さんに入った。食べながら祖師ヶ谷大蔵駅まで歩きたかったので、ツナチーズパンとフレンチトーストを買って退店。
散歩中はのどかな音楽を聴きたかったから、随分前に作った「君の生活に混じれたらな」というプレイリストを再生した。これは時速36kmというロックバンドの『かげろう』という曲の歌詞である。君の生活に。なんて美しい願いなのだろう。
洗濯物を畳みながら聴けるような、のどかな曲を自分なりに集めて作ったプレイリスト。その中でも、今日の気分にぴったりと合ったのは、ミツメの『エスパー』という曲だった。
たしか、家主というバンドが好きだとツイートしたとき、「ミツメと牧野ヨシもおすすめだよ」とフォロワーさんが教えてくれて、そのときにこのプレイリストに追加した気がする。
数曲しか知らないが、知らない街で知らない曲を聴くって良いなと思ったので、祖師ヶ谷大蔵駅まではひたすらミツメを聴きながら歩いた。無理にテンションを上げてくるかんじがない。でも、ちょっとワクワクする、そんなメロディ。
しばらく歩くと、祖師ヶ谷大蔵駅が見えてきた。そしてウルトラマンが立っていた。ウルトラマンの、像。その股の間に男の子が座っていた。いいな、少年。そこめっちゃ良いな。ヒーローの股の間、特等席じゃん。祖師ヶ谷大蔵は、ウルトラマンの街らしい。円谷プロの本社があるんだって。
本屋を旅する本屋さん
祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩数分のところに、その本屋さんはあった。BOOKSHOP TRAVELLER。小さな本屋さんで、自動ドアのボタンがついていたけど、手動だった。
入ってすぐに黒沼英之の展開。嬉しい。嬉しすぎる。出会った時には既に活動休止していたから、こういうイベントというか展開を見るのも初めて。彼が選書した4冊がコメントともに並べられていた。全部買いたかった。
でも、何冊もストックが置いてあるわけではなさそうだった。これ、全部買ったら筆者の後に来た人は買えないのかな…そう思うと、むしろ買わない方が親切な気がして、一旦展開を離れた。
とりあえず、店内の本棚をゆっくりと見てみる。いろんな本屋さんの名刺が貼られていて、不思議なかんじだった。BOOKSHOP TRAVELLERは、“本屋を旅する”というコンセプトで、約100の本屋が出店しているらしい。ドキドキした。
素敵な作品に出会った
一番惹かれた本棚は、七月堂古書部の出店。詩を中心とした本を扱っている本屋さんらしく、詩集がたくさん並んでいた。詩集ってどこで買えるんだろう?と気になっていたので、詩を中心に取り扱っている本屋さんがあると知れて嬉しかった。
その本棚に並んでいた詩集をパラパラと眺めていたとき、1冊の本が目に留まった。背表紙にタイトルがなく、まったく何の本か分からなかった。気になって思わず手に取る。
中身を開くと、まさかのスケジュール帳だった。詩人の方がアイデアを出し、七月堂が製作した、のほほん手帖というものらしい。
最初の数ページに使い方が記されていた。「この手帖の目的は、日々の生活をのんびり、のほほんとしていくことにあります。」-----「空白の日を大切に。」
スケジュール帳、学生時代はまめにつけていたし、社会人になってからも、3年目まではつけていた。でも、退職して東京へ引っ越してきてから、つけなくなった。
いや、最初はつけていた。でも、予定があまりないことが虚しくなってきて、つけるのをやめた。転職したが、相変わらず予定は少ないし、それが虚しいし、無理に埋めようとするのも嫌だから、つけていない。
だからこそ、「空白の日を大切に。」という言葉の柔らかさに、泣きそうになった。スケジュール帳は、空白を突きつけられて虚しくなってしまう、そんな使い方ではなくて、空白を愛おしく眺めるような使い方もできるのかもしれない。
音と言葉を持ち帰ること
のほほん手帖、『HOPE』のカセットテープ、黒沼英之の選書本の1冊を持ってレジへ向かった。店員さんが「黒沼さんのファンの方ですか?」と声をかけてくれた。はい、と頷くと「10年ぶりの活動再開なんですね」と微笑んでくれた。
「そうなんです!すごく嬉しくて!」
「もしかして10年前から…?」
「いえ、6年前くらいから知ってるんですけど、出会ったときには既に活動休止していたので、新曲を聴くって初めてで…!」
「え~~~!」
分かち合える人が身近にいなかったから、この会話がとても嬉しかった。「え~~~!」が一番嬉しかった。嬉しいを分かち合うときの「え~~~!」ってめっちゃ好きだ。
『HOPE』購入特典のラッピングペーパーを受け取って、本屋さんを後にした。
カセットテープと手帖と本。音と言葉を持ち帰ると、とても幸せな気持ちになる。音や言葉は、生み出した人の思考や感情の結晶であり、生きた証だと思う。そんな大切なものを持ち帰って、自分のそばに置けるって、なんて幸せなのだろう。
帰りの電車で聴いた音楽
祖師ヶ谷大蔵の商店街をぶらぶらと歩いたり、おしゃれな喫茶店に入って買ったばかりの本を読もうかと思っていたのだが、本屋さんで過ごした時間があまりも充実していたので、どこにも寄らずに電車に乗った。
電車に揺られながら、イヤホンで聴いたのは雨のパレードというバンドの曲。本屋さんで流れていて、良いなと思ってShazamで読み取ったら、このバンドの『Tokyo』という曲だったのだ。
お会計のときに、店内で流れている音楽がずっと素敵だとお伝えしたら、「黒沼さんをリピートで流してたんですけど、途中からは、自動で関連の音楽が流れてたみたいです」との事だった。
バンド名は目にしたことがあったが、ちゃんと楽曲を聴いたことがなかったので、嬉しい出会いだった。おしゃれで心地よい音楽。
しばらくこのバンドを聴いた後、The Whoopsを聴いた。最近『ロマンチック』という曲で出会ってから、じわじわと好きになってきている。作り込みすぎていないかんじが好きだ。素朴な雰囲気が残っていて、尚且つメロディが天才的に良い。
電車を降りてからは、家まで、Helsinki Lambda Clubを聴きながら歩いた。夕方、充実した日の帰り道はこのバンドが聴きたくなる。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。出会った素敵な言葉や音をおすそ分けできるような文章になっていたら、嬉しいです。良いじゃん!って言ってくれる人がいたら、またこういう文章も書いてみようかな。
↓文中に出てきた曲をまとめたプレイリスト(AppleMusic用)です。良かったら音楽との出会いにしてください。
https://music.apple.com/jp/playlist/%E6%97%A5%E8%A8%98/pl.u-AkAmvZmhl73kGr
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