THE BOYS&GIRLS(通称ボイガル)にハマってから夢見るようになった“札幌に住んでみたい”という憧れを、1年越しに叶えにいった11日間のこと。
札幌移住計画を立てるまで
THE BOYS&GIRLSは、札幌在住のロックバンドである。筆者は2022年10月に見たライブをきっかけにボイガルにハマり、強く魅了され、翌月には東京から札幌へ遠征して、ツアーのファイナル公演を見た。
そのとき、『ブリッジ』という曲の由来である幌平橋に行った。楽曲の舞台を体感できることの面白さを知り、札幌という街に強烈な興味を抱いた。ボイガルの楽曲は、札幌の景色や空気とリンクしている。
2023年1月には、このブログで「【ボイガル日記】二子玉川へ行って二子玉川ゴーイングアンダーグラウンドを聴いた話」という記事を投稿した。今思うと、東京在住だからこそできる体験を綴って、簡単には札幌に行けないもどかしさを昇華したかったんだと思う。
2023年3月、筆者は“札幌に住む”という目標を立てた。ボイガルの楽曲に内包された札幌の空気に気づけるようになりたいと思った。ライブ遠征で滞在する数日間でわかることもある(遠征時の体験をブログにいくつか残しているので、良かったら読んでみてほしい)が、長く滞在しないとわからないこともある。
夫の仕事があるから札幌への移住は現実的ではない。それなら、1ヶ月でもいいから、札幌に住んでみるということを、今、したいと思った。
この1年間の話
札幌に1ヶ月住むとしたら、何をしたいか。
リモートワークで仕事して、退勤後にフラッと札幌のライブハウスに行きたい。お目当てのバンドがいなくても、暇だからってかんじで、フラッと。食べ物は、観光みたいになるから、名物は食べなくていい。スーパーで半額のお弁当とかを買って食べたい。中島公園や幌平橋に、当たり前みたいに毎日散歩に行きたい。
それから、札幌の空気の中でギターを弾いてみたい。札幌の空気の中で、ボイガルの曲たちを弾いたら気持ち良さそうだし、この空気とこの曲のこの部分がめっちゃ合うな、とかを感じながら弾けたら、楽曲の聴こえ方も、より鮮やかになりそうだ。
ギターは触ったことすらないからこそ、買うなら札幌のハードオフ中の島店が良いなと思った。ライブのMCで、シンゴさんがそこで8000円のギターを買ったのだと話していたとき、その値段なら自分でも始められるかもって、ちょっとワクワクしたのだ。
2023年3月31日、ライブ遠征で札幌に行ったついでに、ハードオフ中の島店でギターを買い、東京の自宅に郵送した。そして、YouTubeに投稿されている初心者用のギター講座動画を見ながら、独学で練習した。上手くはないが、それなりに弾けるようになった。
2024年4月12日~22日、夢だった札幌移住を実行に移した。1ヶ月とはいかなかったが、およそ半月。上々だ。前置きが長くなったが、札幌移住計画は、突発的な思いつきではなく、実は1年間の準備期間をもってして叶えにかかった、夢の11日間なのである。
札幌への11日間移住、スタート!
day1.
金曜日。有給休暇をとって、東京から札幌へ。宿に着くと、自宅から郵送していたギターと段ボール1箱が台車に乗って運ばれてきた。本当に引っ越しみたいで、思わず笑ってしまった。
札駅で集合し、宿までついてきてくれた北海道の友人をロビーで待たせたまま引っ越しを済ませ、ギターを背負って2人で豊平川の河川敷へ向かった。ココノススキノのDONGURIで買った塩メロンパンを食べ、彼女から1枚のCDを受け取った。
彼女の初の自主制作盤。事前にデータを受け取って聴いていたから、メロディも歌詞も口ずさめる。コードを教えてもらい、一緒に弾いたり歌ったりした。彼女のあたたかい感性がそのまま滲み出たような、素敵な音楽。
陽が落ちてギターを片付けた後も、夜遅くまでずっと喋っていた。簡単には会えないから、会えたときは話したいことがたくさんある。
day2.
土曜日。朝から晩までIMPACT!というサーキット。終演後、昨日会った北海道の友人と再び合流し、セコマのカツ丼を食べた。話題は、IMPACT!でのボイガルのライブ。
ボイガルのライブは心をパンッパンにしてくれる。溢れるぐらいのものを貰ってるんだけど、内側から拡張されて、心が水風船みたいになって、それ以上貰ったら好きが溢れちゃうよー!ぎゃー!やめてー!のギリギリのところ。なんたる幸福感。
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消灯時間が過ぎた頃、こっそりと起きてゲストハウスを抜け出した。明日はCRYAMYのツアーファイナルが札幌のSPiCEで開催される。そのライブを見に、関東から友人が遠征してきていた。
「案内したい場所がある」と、友人が泊まっている宿へ迎えに行き、幌平橋へ。彼女を連れていくなら、夜の幌平橋が良かった。同じライブを見た後、夜に2人で語り合うのが恒例だったから。
幌平橋のてっぺんでしばらく語り合い、やっぱり夜で良かったなと思った。帰り道、筆者が教えた『ブリッジ』を彼女が鼻歌で歌っていた。
day3.
日曜日。午前中は北海道の友人と関東の友人を引き合わせた。北海道の友人はボイガル、関東の友人はCRYAMYに出会ったことから音楽活動を始め、互いに動き出したところだ。共通点も多いが、正反対なところもあるのが逆に良いと思った。
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CRYAMYのライブ後は、ギターを持って関東の友人と月寒公園に行った。
去年の秋に札幌に遠征したとき、一人で来た公園。大きな丘が広がっていて、丘の頂上に長すぎるすべり台があって、すべり台の上から星空を眺めるのが最高だった。そのとき一人だったけど、こういう場所、絶対好きだろうなって、彼女が思い浮かんで、いつか絶対連れてきたいと思った。
すべり台は閉鎖されていて登れなかったけど、丘の頂上のベンチに座って、話したり、彼女が弾いて歌うのを聴いたりした。想像していた通り、やっぱりこの場所に彼女の歌声はぴったりだった。丘と街と星空と外灯と。
CRYAMYを追いかけて全国を駆け回った日々とか、いろんな思い出があるけど、そういうのを結晶化できた夜だった。先は分からないけど、生み落とされた音楽も、思い出も、あなたとの出会いも消えないから、私は幸せ。
day4.
月曜日。平日なのでリモートワーク。Xを開き、シンゴさんの「幌平橋で路上をしたく、どなたかアコギを貸していただけないでしょうか」という投稿に気づいた瞬間、心臓が一気に騒がしくなった。幌平橋は宿から徒歩10分。「お貸しできます!」と返信したら、すぐに返信がきて、アコギを貸すことが決まった。そんなこと、ある???
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昼休憩の1時間は勤務から離れられるので、その時間だけ河川敷に出て、関東の友人と会った。事の顛末を伝え、ギターの状態を見てもらい、何が起こるか分からないので、念のため2回弾いた。
「最初に比べたら上手くなったよね?」と聞くと、筆者よりも大きい声で「めっちゃくちゃ上手くなったよ!!!!!!!!」と頷いてくれた。
彼女とは月1回、多摩川の河川敷に集まり、ギターを弾いてきた。「路上見たいな~」と言うから、「来て!!!」と言ったが、「無理無理、明日仕事だよ」と笑って、帰って行った。大丈夫だけを残して帰るなんて、かっこよすぎである。
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幌平橋での路上は、空の色、空気、景色、ぜんぶがシンゴさんの歌声とぴったりだった。札幌の空気の中でボイガルの曲を聴いたり弾いたりして、楽曲の中に溶け込んだ札幌の空気を感じたいと思っていたのだが、幌平橋の下で本人が歌ってくれたら、そんなのもう答え合わせだ。
最後に、シンゴさんがギターの紹介をしてくれた。ボディに思いっきり貼ったステッカーも、ヘッドに修正液で書いた中の島も、ストラップを結び付けているカナリヤの紐も、ぜんぶボイガルだし、ぜんぶ札幌だから、見てもらえれば大好きだってことが一発でわかるようなギター。
だから、いつかこのギターをシンゴさんに見てほしかったのだ。説明しながらめっちゃ笑ってるシンゴさんと、その説明を聞いて笑い声が起こる幌平橋の下のあの時間が、すごく幸せだった。
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説明した後、「弾く?」と聞かれたので、シンゴさんの隣へ座った。ギターは私、歌はワタナベシンゴ。『ライク・ア・ローリング・ソング』。私の下手くそな演奏がかっこよくなるとしたら、この曲しかなかった。音程外してても、かっこつかなくても、俺たちはこれしかできないって歌。
綺麗な音は鳴らせないし、指が追いつかないときもあったけど、大好きなあの歌声で、歌ってくれた。間奏が弾けないから止まったら、拍手が起こって終わりっぽくなったけど、「最後までいこう!」と言ってくれたから、1曲を弾き切れた。
そういう一つ一つの寄り添いが心強く、くすぐったかった。それから、ビリビリとした感覚もあった。この大好きな歌声を、私のギターで詰まらせたくない、って必死になった、緊張感。
弾き終わったとき、「めっちゃ弾けてるじゃん!!!」とシンゴさんがキラキラした笑顔で言ってくれたのが、とんでもなく嬉しかった。
day5.
火曜日。リモートワーク。昨日のことが夢みたいで、『ボーイ』の「夢のような現実を」という歌詞の部分が、ずっと頭の中を流れていた。
夢みたいだけど、コードを書き写しているノートを開けば、表紙の裏に昨日書いてもらったサインがある。夢か現実か分からなくなるたびに、ノートを眺めていた(仕事しろ)。
1ページには、『すべてはここから』のコード。それをなんとなく眺めていたとき、「君が忘れてしまっても 俺は忘れないでいるよ 輝いた嘘のような本当を」という歌詞が目に留まった。
昨日の出来事は、嘘みたいだけど、本当なのだ。
「そんな夢みたいな」とか「そんなの嘘だって」とか思ってしまうことは多いけど、私は、人のことも、自分のことも、未来の可能性も、もっと信じるべきなのかもしれないなと思った。
day6.
水曜日。リモートワーク。退勤後も雨だったが、ライブハウス日和だ。屋内で楽しめる遊び方。幌平橋での路上の後、ボイガルファン達と晩ごはんを食べたとき、おすすめのライブを聞いた。それが今日のライブだ。LOGに行ってみると良いって。
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退勤後、音楽処で再入荷されたボイガルの新しいアルバムを受け取り、そのままLOGへ向かった。雰囲気のある面白いライブハウスだった。とりあえず、ちょこんと座って開演時間を待った。
が、入ってくるお客さんは全員顔見知りのようで、自分の場違い感がすごかった。受付をしてくれた奥山さんが、そっと「ここで合ってますか…?」と心配して聞きに来てくれるくらいに。後から分かったのだが、主催者のお母様の喜寿をお祝いするイベントだったので、お母様の知り合いが集まっているような場だったのだと思う。
どおりで場違いなわけだ。居づらさはあったが、ヌルマユと奥山漂流歌劇団のライブがすごく良かったので、満足して帰った。不思議な体験。
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傘を持っていなかったので、帰り道は、雨の混じる向かい風の中を走った。イヤホンから流れてくる『34』になんだか泣きそうになった。
札幌にはよく雨混じりの強い向かい風が吹く。筆者は京都も愛知も東京も住んでいたことがあるから、いろんな土地の空気を知っている方がだと思うが、これは札幌の特徴だと思う。なんか、くじけそうな気持ちにさせる風が吹くときがある。
『34』は、そんな風(かぜ)に立ち向かっていく音楽というかんじがした。これがきっと最後なんだって、これがずっと足りないんだって、挫けそうになりながらも、またワンツー!と叫んで向かい風の中を踏み出していく。ボイガルが握りしめているこの強さに、筆者は魅了されている。
day7.
木曜日。リモートワーク。退勤後、喫茶店へ行き、ごはんを食べた。元々ゲストハウスだったらしく、お子さん連れの方もいて、家庭的な雰囲気。札幌にはこういう場所があるんだなって、なんだか心強い気持ちになった。
喫茶店を出た後、北海道の友人が終電を逃したので、宿からギターを持って来て、2人で幌平橋へ行った。夜の暗闇を柔らかく照らす、ナトリウムランプのオレンジ色を眺めながら、『メル』を弾くと、和やかな気持ちになった。
交代で弾いたり、一緒に歌ったりして、寒くなってきた頃に解散した。
day8.
金曜日。リモートワーク。昼休憩の1時間と退勤後は河川敷に行き、一人でギターを弾いた。もう8日目だが、ずっと人といたような気がする。
それらの日々ももちろん楽しかったが、何もない日も筆者は楽しみにしていた。仕事しか予定がない日。住まないと、こういう日は作れない。
河川敷でボイガルの曲をたくさん弾いて、札幌の空気を吸って、風を感じた。いろんな曲を弾いたが、一番気持ち良かったのは『歩く日々ソング』だった。この曲、もしかしたらこの季節の曲なんじゃないかな~って思った。
4月上旬の肌寒さが残る風。スッキリとした空気、澄み渡る青空の下で弾くこの曲が、やけに気持ち良い。歌詞に「ブルー」や「青」がたくさん出てくるのは、青空が広がるこの空気を落とし込んだのではないだろうか。
分からないけど。でもまあ、そういうのを感じたり考えたりするのが筆者は好きなのだ。こういうの、本当は毎日やりたい。
day9.
土曜日。少し河川敷でギターを弾いたが、風が強すぎてすぐやめた。ソフトケースごとぶっ飛んでいきそうだった。ギターを持ったまま、中島公園の近くの喫茶店へ避難。11月に札幌に来た時も、寒すぎてこの喫茶店に避難した。もう無理!となるタイミングで、いつもこの喫茶店が現れる。
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12:20に北海道の友人と合流し、札幌のパワースレイブというスタジオに入った。筆者はアコギしか弾けないし、基本的に歌も歌わないので、あまりスタジオに入る意味はないのだが、初めての体験だったのでワクワクした。
ラミネートされた紙に機材の使い方が書かれている。ドラムセットの椅子に座って、下のペダルを踏んでみたら、ドン…!と音がした。「これ!夏の野外フェスの!始まる前の音出しの音だ!!!」「ドン…!・・・・・・ドン!」完全に夏フェス。
筆者のアコギには線を差す穴がなかったので、ホール付近にマイクを置いて、なんとなく大きな音になるかんじにして弾いた。友人もマイクで歌い、二人でゲラゲラ笑いながら過ごした。『最初で最後のアデュー』がめちゃくちゃ面白かった。
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スタジオを出た後はココノススキノのラジオブース付近のソファに座ってくつろいだ。すると東京でよく見るボイガルファンの方が通りがかり、「お~!!!」となった。明日はボイガルのツアー初日。徐々に遠征勢が札幌入りし始める。
そして突然流れる『ボーイ』。えええ~?!?と騒いでしまったのだが、ラジオブースでオンエアされたようだった。「拳あげてた人いた!」と友人が言うので、見に行くと、何度かライブで会ったことのあるボイガル大好き青年だった。
この11日間は、奇跡みたいなことがよく起こる。
day10.
日曜日。午前中から北海道の友人と河川敷に集合し、2人でギターを弾いた。快晴のポカポカ陽気。明日には東京に帰るから、札幌でギターを弾ける最後のタイミングだった。
筆者はイントロや間奏など、歌のない部分はどう弾けばいいのか分からないから、いつも飛ばすのだが、友人が弾き方を教えてくれた。「???」となっていると、「こっちでも良いかも」と言って、別の弾き方を教えてくれた。
ギターの弾き方を教えてほしいときは、動画を送ってもらうという方法もあるが、やっぱりその場に一緒にいないと、分からないことが多い。
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幌平橋で『ブリッジ』を弾いていたら、おじちゃんが通りがかって、風船をくれた。筆者のギターに貼ってあるステッカーを見て、「ボーイズ&ガールズ?」と聞いてきたので、焦りながら、「私の好きなバンドです!私たちではないです!」と訂正した。このギター、ボイガルすぎて誤解を生んでしまう可能性をはらんでいる(笑)
最後は2人で『間違いじゃない』を弾いた。友人が歌う「教えてくれたあの歌のギター ひとりではできているのかできていないのかわからないんだよ」という歌詞が、東京に帰ってからの筆者を表現しているみたいに聴こえた。今は弾けていても、帰ったらきっと、またわからなくなる。
でも、それでいい。また会いに来るから。
満足したので、ギターを宿に預け、すすきのへ向かった。マックで腹ごしらえをし、cube gardenというライブハウスへ。ボイガルの新譜を引っさげたツアーの初日、札幌公演が開催される。
開場前にボイガルファンの方が1人話しかけてくれた。初対面だったけど、このブログと「♯アドベントカレンダー感想」(毎月別のフォロワーさんに30曲選曲したカレンダーを作成してもらい、毎日筆者が聴いて感想をツイートしている。2022年から継続中)を褒めてくれて、おかげさまで音楽の世界が広がったのだと伝えてくれた。
文章で音楽との橋渡しをしたいと思っているので、すごく嬉しかった。それから、引っ越し祝いだと言ってボイガルの缶バッジをくれた。「明日から東京出張?」と聞いてきたのも面白かった。“引っ越し祝い”に“東京出張”。ここまできたら、札幌住民を名乗っても良い気がする。
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エバヤンのライブも、ボイガルのライブもめちゃくちゃかっこよくて、終演後は心がじーんとした。じんわりと広がっていく、言葉にできない感情。一人になりたかったから、走って帰った。
cube gardenから幌平橋付近の宿までは、結構遠い。時計台を越えて、テレビ塔を越えて、すすきのの繁華街を越えて。途中でスーパーに寄って、やき弁を買い、小脇に抱えて走った。街中は明るかったが、河川敷の方へ出ると、途端に暗くなり、人通りも少なくなった。
なんだか急に一人だった。さっきまでライブを見ていたのに、急に一人だった。明日は東京に帰るんだって、もう札幌での生活も終わりなんだって、そういう寂しさもあったのかなぁ。
空を見上げたら、黒くて、広くて、泣きそうになった。吸い込まれそうだった。それから、異様に遠く感じた。昼間に見上げる札幌の青空は、眼前に迫ってくるような近さがあるのに、夜になると、とてつもなく遠くなる。
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「気まぐれな遠い空に泣かされる」という歌詞が、頭の中で流れた。これは高橋優の『風前の灯』という曲。(あれ?この曲ってもしかして札幌の曲なのかな)って、ふと思った。今までそんなふうに聴いたことはなかったけど、彼が音楽活動を始めたのは札幌だから、あり得る。インディーズ時代の古い曲だし、本当にそうかもしれない。
「孤独の時代に生まれた僕ら、思わせぶりな街が呼んでいる」
「淋しがりばかりが生きる世界、気まぐれな遠い空に泣かされる」
思わせぶりな街ってすすきのの繁華街なんじゃないか?気まぐれな遠い空って河川敷に広がる真っ暗な空のことなんじゃないか?真相は分からないが、もしこれが当たっていたら、筆者は札幌の空気を楽曲から感じ取る力を身に着けたことになる。どうなんだろう、そうだったらいいな~。
札幌は大好きだけど、遠い空を見て、そろそろ家に帰った方が良いのかもしれないなと思った。洗濯物も溜まってきたらしいし。
「独りきり もう一人で 二人きり」
これもまた、好きな歌詞だ。
day11.
月曜日。東京へ帰るため有給休暇を取得。宿から徒歩10分の郵便局を2往復した。1回目はギター、2回目は段ボール1箱。荷物の多くは段ボールに詰め、リュックひとつで帰れるようにした。
チェックアウト後は、すすきのへ。母の誕生日、北海道の美味しいおみやげでも見つけて贈りたい。リクエストを聞いたら、「ミルクのスイーツ」と返ってきた。なんだろう。妙に難しい。
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すすきのの街中に着くと、ふわっと甘い匂いが漂ってきた。朝から何も食べていない。ふと見ると、ミスタードーナツだった。これでフラッと入店したら、めっちゃ札幌住民ムーブな気がする。
今日までは札幌住民なので、当たり前のように入店した。ドーナツをひとつだけ齧りながら、ミルクのスイーツを検索。焼き菓子だとどこで買ってもあまり違いがない気がするし、ミルクの美味しさがそのまま生かされたようなものの方が良い。・・・・・・・よし、これだ。
退店して向かったのは、雪印パーラー本店。ミルクアイスのセットを実家に郵送した。ミルクのスイーツの王様じゃない?完璧すぎ。さすが住民!
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札幌を発つ前にいつも行く喫茶店でランチを食べ、アイスコーヒーを飲んだ後、とある屋台へ向かった。1年前、ボイガルを見に札幌に来た時、いももちを買った屋台。いももちを買ったことをこのブログに書いていたら、「そのいももちを売ったの、私です!」と連絡が来たのだ。
いももち屋さんは、なんとボイガルファンだった。さすが札幌である。ライブで会うとよくお喋りをする仲になった。屋台の方へ歩いていったら、遠くから手を振ってくれた。本当にいももち屋さんじゃん!いももち代を払おうとしたら、「引っ越し祝い」と笑って戻された。なんか、ボイガルファンの方たち、ノリが良すぎる(笑)
いももちができるまでの間、「見てくださいこれ!」と言って、区役所で貰ってきた用紙を見せた。転入届の様式と、住民票発行依頼の紙。もちろん提出はできない。記念に貰ってきただけだ。
いももち屋さんは、それを見て笑いながら、「次はいつ帰ってくるの?」と聞いてくれた。「東京へいつ帰るの?」ではなく、「札幌にはいつ帰ってくるの?」と聞いてくれたあたたかさに、めちゃくちゃグッときてしまった。
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札幌には、6月30日に帰ってくる。ごめん、全然すぐだわ(笑)だってさ、ボイガル主催で札幌でサーキットやるっていうんだもん!!!
そのときは、ただいまって言う。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。めちゃくちゃ長い記事になりましたが、筆者の胸の中には、まだまだ書ききれないほどの物語があります。ここまで読めてしまったあなたにだけ、2つの物語を紹介します。
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遡れば、初めて札幌に憧れたのは高校生のとき。高橋優に出会い、狸小路の商店街や音楽処というCDショップにいつか行ってみたいと思いました。高橋優は筆者が初めて好きになった音楽家で、音楽にのめり込むきっかけとなった人です。
高校生だったから、札幌は遠すぎるし、一生行けないかもくらいに思っていたのですが、なんと住むことになるとは(笑)ボイガルの新譜を音楽処で買ったのは、この物語を繋げたかったからです。
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そして、ボイガルにハマるきっかけとなった2022年10月のライブ。このときはボイガルを意識しておらず、CRYAMYと時速36kmのスプリットツアー、ファイナル公演のために札幌に遠征してきており、翌日にたまたまジュウとボイガルのライブがあったから、ついでに行ったのでした。
だからこそ、CRYAMYのツアー札幌公演(w/時速36km)が4月14日、ボイガルのツアー札幌公演が4月21日、と解禁されたとき、この期間に住むことを決めました。CRYAMYと時速36kmからボイガルへと繋がる流れは、筆者の中で出会いの物語です。
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筆者は時速36kmの『動物的な暮らし』という曲の「思い出に負けないような日が来るまで生きる」という歌詞を一つの指針にしていました。
今回の札幌居住中に見た時速36kmのライブでも、この曲を歌っていて、そのとき、札幌に住んでいる今が一番楽しいし、思い出に負けないような日が来るまで生きられたんだなと思いました。
こんなに楽しくなるなんて。
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1年あれば、夢中になれるバンドに出会って、一気に生活が華やぐかもしれない。1年あれば、触ったことのなかった楽器を、大好きな音楽家の隣で弾けるかもしれない。
1年ってすごい。ね、1年ってすごいと思いませんか。なんだか今、とてもドキドキしています。
おまけ
本文中に登場したバンド・アーティストの楽曲を集めたプレイリストを作成しました。サクッと聴ける、8曲30分。札幌移住11日間の物語に沿った曲順になっておりますので、読後の余韻で聴いてみてください。
AppleMusicでサブスクをご利用の方は下記URLからプレイリストをダウンロードできます。良かったらどうぞ。
https://music.apple.com/jp/playlist/%E6%9C%AD%E5%B9%8C%E7%A7%BB%E4%BD%8F11%E6%97%A5%E9%96%93/pl.u-RRbVY4RuexrBG2
※他の媒体をご利用の方は、下記の曲順を再現してください。
ten/CRYAMY
動物的な暮らし/時速36km
すべてはここから/THE BOYS&GIRLS
ライク・ア・ローリング・ソング/THE BOYS&GIRLS
ブリッジ/THE BOYS&GIRLS
原始の宴/奥山漂流歌劇団
34/THE BOYS&GIRLS
現実という名の怪物と戦う者たち/高橋優
新しい音楽との出会いになれば幸いです!
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