CRYAMYと時速36kmを好きになってからの日々

ライブレポではないので、出演順・セトリ・MC・などのネタバレは一切なし。自分の人生と絡めながら、CRYAMYと時速36kmを好きになってからの心の動きを綴る。自分語りをする超主観的な文章。音楽文みたいなもの。

私にとって2021年はCRYAMYの年だった。CRYAMYに出会ったのは2020年の夏だったが、当時は愛知に住んでいたため、ライブを見る機会になかなか恵まれなかった。2021年の春に東京に転居し、CRYAMYのライブに遠征せずに行けるようになってから、一気に熱が高まった。想像以上にライブバンドで、完全に虜になった。

この時期、私は仕事を辞めて、無職の状態で東京に転居してきていたから、自己肯定感なんてものは地に落ちていた。“文章を書く”という好きなことを仕事にできたら、という気持ちでライター活動をしていたが、お金になったのは個性を消した、分かりやすいだけの記事だった。それは決して私が書きたい文章ではなかった。

減っていく貯金額を眺めながら、どこかで諦めをつけないといけない、就職する必要がある、でも働きたくないな~とウジウジ考えながら、動き出せずに、焦燥感と劣等感に包まれていた。

私はロックバンドが大好きだが、ステージに立つ人というのは往々にして自信があるように見えたし、「仕事とか学校とか、みんな頑張ってんでしょ?ライブのこの場くらいは全部忘れて楽しもうぜ!」みたいなMCもわりとあって、頑張っていない私にとって、それらはすべて刃になった。

CRYAMYは、学校や仕事を頑張っているのが当たり前というスタンスではなかった。むしろ、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる人を対象にしているように見えた。CRYAMYのライブは何も頑張れていないと思うような日々を過ごしている人間が行っても、刃にならないどころか、肯定してくれると感じられた。

加えて、CRYAMYの音楽には痛み、孤独、諦念など、深い苦しみがどうしようもなく横たわっていた。現在進行形で直面している悩みだけでなく、過去の痛みも掘り返されるような感覚があった。

今の私を知る人は、想像もつかないかもしれないが、かつて私は人に対して異常に緊張してしまうという特性を持っていた。最も過敏になっていた数年間は、学校で発生するあらゆる人間関係を拒絶し、一切笑わず、一言も発しなかった。一人にしてもらうことでしか、安心を得ることができなかった。もちろん教室に居場所はなかった。

“劣等感と孤独”というのは、私の心に昔から巣食っている感情である。CRYAMYの音楽にも、その要素を感じていた。今の悩みにも、過去の痛みにも共鳴してくれるCRYAMYの音楽は、私にとって欠かせない存在となった。CRYAMYと私、だけの時間がしばらく続いた。

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2022年冬、対バン目当てで行った公演で時速36kmのライブを見て、私はその音楽の虜になった。CRYAMYの音楽がもつような“痛み”を時速には感じなかったが、CRYAMYにはない、陽だまりのようなあたたかさがあった。そのあたたかさに癒され、憧れた。自分とは違うと思ったが、だからこそ、こうなりたいと思った。

それから何回か時速のライブに行き、そのあたたかさの正体を知ろうとした。その過程で目撃した、2022年4月開催の時速36kmのツアーファイナル公演。ゲストは「忘れらんねえよ」という、時速が尊敬しているバンドだった。憧れのバンドとの共演という夢を目の前で叶えていく時速の姿は、私にとって眩しすぎる光景だった。

時速は社会人として働きながらバンド活動をしているメンバーのいるバンドである。生きているだけで100点なのに、社会人として働いて、バンドで夢も叶えて、もうなんか、凄すぎるし、かっこよすぎるのだ。自分との乖離に直面してしまい、この日はヨボヨボになって帰った。

かっこいいライブだったのに、それを喜べない自分が嫌だった。自分ももう少しかっこよくならないと、時速のライブをまっすぐ見られないような、そんな気がした。自分には眩しすぎる、と判断して離れるという道もあったが、私はすでに時速36kmというバンドを大好きになっていたし、離れたくはなかった。

離れるくらいなら、自分がかっこよくなって、近づこうと思った。自分がもう少し頑張れば、一緒に頑張っていこうぜ、と肩を組んでくれる音楽になる気がした。

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2022年5月、CRYAMYがワンマンツアーを開催した。自分が頑張れるならこのタイミング以外にないと思ったから、ワンマンツアーを全通しながら、合間で面接を受け、転職先を決めた。

好きなことではないが、フルリモートの事務職なので、人間関係のストレスとは無縁というのが魅力的な仕事だ。初勤務はファイナル公演の翌日。CRYAMYに支えられっぱなしのリスタートである。

好きなことを仕事にできるほどの才能がない凡人は、つまらない仕事をルーティンでこなすことしかできない。好きなことではないにしろ、人の役に立っているという喜びを得られる仕事は数多く存在するが、そういう仕事ほど負担も大きいだろうと思う。それをこなしていくだけの耐久力が、私にはないように思えた。

できるだけ楽そうな仕事を選んで、生きがいは趣味に求める、それが凡人かつ耐久力のない私の行きつく先だった。自分の許容範囲を理解した賢明な判断だと思う一方で、こんな自分を情けないと思うときもある。この感情はずっと振り子のように揺れ続けているが、この揺れは、楽をしようと決めた私への枷だと思うから、このまま味わい続けることに決めた。

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2022年9月、CRYAMYと時速36kmがスプリットツアーを開催した。名古屋・大阪・東京・北海道の4公演。時速のツアーで時速を大好きになって、CRYAMYのツアーでCRYAMYをさらに大好きになった私に、襲い掛かる朗報である。こんなツアー、全公演行くしかないでしょう。

1公演目。CRYAMYと時速36kmのライブを連続で見て、私が抱いたのは「時速の方が好きだ」という感情だった。かつて眩しくて直視できなかった時速のライブを、真っ直ぐ見つめて、かっこいい・楽しい・最高だ!と思えた自分に嬉しくなった。私は、私のなりたい私にきっと近づいている。

自分の日常を情けないと思うことは多いが、時速のライブを見て、そんな日々を愛してみようと素直に思えた。生きていく日常をただ大事にしたいと思った。

私の仕事は、誰にでもできるような仕事かもしれないが、楽な仕事を選んだからこそ、「音楽を聴く」「ライブに行く」という趣味に全力投球できる。そこで動いた感情を、こうやって文章にする時間もある。その文章を好きだと言ってくれる人もいる。

そんな日々を、愛していけたらいいと思った。足掻くのではなく、あとはこの日々を愛するだけなのだ。この新たな目標を掲げた私に、時速36kmの音楽は、ぴったりと寄り添ってくれるような気がした。

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2公演目。CRYAMYと時速36kmのライブを連続で見て、私が抱いたのは「CRYAMYの方が好きだ」という感情だった。この日のCRYAMYのライブに、どうしようもなく心が震えた。

楽な仕事をこなすだけでよくなった私の日々に、CRYAMYの音楽は合わないのではないか、今は幸せだから、過去の苦しみも、もう精算していいのではないか、と思い始めていたから、CRYAMYの音楽に大きく心が動いた自分に驚いた。

と同時に、安心した。私の今の日々がいかに安定していようと、こういう音楽に共鳴してしまう自分が絶対的に存在する。これもまた自分なのだと思った。

過去の私を苦しめた、人に異常に緊張してしまう特性も今はないが、その経験があるから、緊張している相手の気持ちを理解できる。“孤独”があるから、誰でも話しかけやすいように私は門扉を開いておきたいと思うし、“劣等感”があるから、誰かを肯定する言葉をたくさん吐きたいと思う。過去の痛みが間違いなく今の私を形成している。

痛みや苦しみとの決別など、不要なのかもしれない。痛みや苦しみの感情もまた、喜びや幸せと同じくらい、大切にしていい。その過去があるから今の私がいるし、痛んだ私も、まぎれもなく私だ。今がそうじゃなくてもいい、現在進行形じゃなくてもいい、そういう私がいるんなら、そんな私も私はなくさないでいるべきだ。

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1公演目と2公演目で両バンドのライブを見て、私は幸せな自分と不幸せな自分、どちらも大切にしていいんだと思った。そうしたら、一気に肩が軽くなった。暗い私を、私は手放さなくてもいい。小さな幸せも、逃さず抱きしめていい。

CRYAMYと時速36km、どちらが1番かを決める必要もない。太陽と月のように、確かにそこに在り続けてほしい。私はその光に照らされながら、過去も今もこれからも、愛そうとしてみたい。そして、この音楽があれば、愛せるような気がする。

※注釈

ここまで読んでいただきありがとうございました。

端的にCRYAMYを痛みの音楽、時速を眩しい音楽と表現しましたが、CRYAMYはあたたかい気持ちになるようなライブをする面もあるし、時速は暗い感情を表現した歌詞も多く、この文章で表現されている各バンドの印象は、私の個人的なもので、とても狭い解釈です。

あなたの感じ方、考え方を大切にしていただくのが一番だと思うので、この人はこう捉えているんだな~ぐらいのかんじで軽く読んでいただければ幸いです。

また、ライター活動は今も副業として続けておりますので、たま~に、これを執筆しました!みたいなツイートをしたときは、微笑ましく見ていただければ嬉しいです(笑)
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